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事例紹介
<事例検討>
とある銀行の支店のA行員が、甲会社に飛び込みで融資の営業を行い、
「たぶん融資できると思います。」
と答え、融資審査に必要な書類一式を預かりました。
支店に帰った後、甲会社は反社関係企業であることが判明したことから、融資を拒絶する
ことになり、A行員一人が甲会社を訪問しました。
甲会社の社長は
「自分から営業に来て、しかも融資できると言ったのにどういうことだ、約束どおり融資
しろ!」
と1時間以上も怒鳴り続け、書類の返却にも拒否をしました。
A行員は、
「戻って検討します。」
と答えて支店に帰り、事情を説明して今度は支店長とともに甲会社を訪れて謝罪しましたが、
社長は納得しません。
支店長はやむなく、
「もう一度検討します。」
と言って帰りましたが、銀行としてはどのように対応すればよいでしょうか。
<事例の問題点>
○ 営業先に対する事前調査
営業先に対する下調べは基本です。特に初めての会社に対しては入念なチェックが必要で
す。
○ 「たぶん融資できると思います。」「検討します。」
営業先でAが相手に期待を持たせるようなことを言ってはいけません。
「検討します。」も相手に期待を持たせることとなり、逆に断りにくくしています。
○ A一人の対応
拒絶すべき会社であると分かったとき、何の対応策も考えずA一人が行ったことも適切で
はありません。
○ 支店長の対応
一定の決裁権を持っている支店長も同じく「検討します。」という曖昧な回答をして帰っ
ていますが、よけいに相手に期待をさせることとなり一層断りにくくしています。
<事案のとらえ方>
○ ミスの過大評価
Aが「たぶん融資できると思います。」と言ったことは不適切に違いありませんが、その文
言を、銀行側がミスとして過大に評価しすぎています。
○ 正規の対応
最初の拒絶通知の段階で、本部や顧問弁護士と協議したうえ(必要であれば警察にも相談)
で、Aのみでなく、上司等複数の担当者で訪問し、
「申し訳ありませんが、まだ融資の契約前であり、総合的な融資判断として融資はできな
いことになりました。」
と伝え、何と言われても、
「申し訳ありませんが、本部とも協議した結果融資できないということについては変わり
ありません。」
「融資の判断の内容は、機密事項ですのでお話しできません。」
それ以上言われても、
「融資できないことは変わりませんので、失礼させていただきます。」
と言って帰る、という対応をすべきでした。
<本件対応方法>
○ 融資に対する判断
甲会社が反社関係企業である疑いがある以上、融資を拒絶すべきであり、これに応じる選
択肢はありません。
○ Aの言動の評価
Aの「たぶん融資できると思います。」は融資の決定権のないAの個人的感想であり、法的
には銀行組織としての発言ととらえる必要はありません。
○ 対応者の選任
すでに、支店長が対応していますので、交渉も含めて全て弁護士に委任する方がよいと判
断されます。
○ 弁護士の対応
相手方に対して
・融資の約束はしておらず、融資はできない。
・総合的判断であり、詳細は機密事項であるので説明できない。
・以上の結論は変わらない。
・本件は弁護士が受任したので、銀行の役員、従業員には方法の如何を問わず連絡をしな
いように。
旨の内容証明郵便を相手方に発出します。
<関係書類について>
○ 書類の選別
関係書類の中で、どうしても返却しなければならないものを選別し、写真を撮ったうえ、
配達証明付書留で送ります。
相手に手渡しするなどの気を遣う必要はありません。
○ 受領拒否の場合
相手が受け取らない場合は、経緯の記録と共に銀行で保管しておけばよいです。
<事後の対応>
○ 相手方からのアプローチ
反社は弱いところをよく狙ってきます。
当然ながら、Aや支店長に連絡が来ますが一貫して
「全ての対応は弁護士に任せているので私は何も言えません。」
と、対応する必要があり、他の行員等についても徹底しておきます。
弁護士以外の者が対応すると、弁護士を依頼した意味がありません。